福岡家庭裁判所小倉支部 昭和53年(少)3205号 決定 1978年12月21日
少年 R・T(昭三九・一一・二〇生)
主文
本件を福岡県中央児童相談所長に送致する。
同所長は少年に対し、通算一八〇日を限度として、その行動を制限する強制措置をとることができる。
理由
(虞犯事由)
少年は昭和五二年四月中学校に進学した直後頃から学校には殆んど登校せず、喫煙、シンナー遊び、不純異性交遊等を繰返えしていたものであるが、同年七月頃からは年長の非行前歴のある少年らと行動を共にして、自動車盗、車上狙い、自動販売機荒らし、無免許運転等の触法行為を反覆し、昭和五二年夏頃から昭和五三年秋頃迄の間、警察から児童相談所に通告された触法事件は数十件に及んでおり、犯罪性のある人と交際し、自己の徳性を害する行為をする性癖があり、その環境性格に照らして将来罪を犯すおそれがあるものである。
少年法三条一項三号ハ、ニ
(家庭環境)
少年の父は多数の前科を有し、昭和五二年には窃盗並びに覚せい剤取締法違反の罪で二ケの有罪判決を受け、昭和五三年九月釈放になつたばかりのものであり、知性も規範意識も極めて乏しく、少年の監護については殆んど期待の持てない人物である。又母も父同様知性も規範意識も極めて乏しく、加えて最近数年間は、多額の借財の為債権者の追及をおそれ殆んど家に寄りつかない有様であり(この為少年の住居は、不良仲間の溜り場となつていた)、又近隣の風評であり確たる証拠はないが、自己の借財の返済に窮し、少年の姉を売春婦として売飛ばした疑もあるなど、世間並みの常識では測り難いものを感じさせる人物である。又母は少年が養護施設、教護施設から逃走して帰宅した場合など、盲目的に少年を庇い少年の居所を教えようとしないなど、警察、児童相談所等に対し非協力的な態度をとり続けている。
(少年の性格等)
知能は普通下位程度で特に問題はなく、又不安緊張等も認められず寧ろ発散傾向の強い行動力に富む人格像を示しているが、感受性共感性に乏しく、対人関係において情緒的に深い接触ができないなど、その将来に危険なものを感ぜざるをえないものがある。又基本的生活習慣ができておらず、規範意識も正常に育つておらず、更に欲しいものにはすぐに手が出てしまうなど欲求をコントロールするという訓練が殆んどできていないといつてよい状態にあるものと認められる。又少年は養護施設、教護施設に収容されても短時日で無断外出してその儘帰らない等施設の処遇に適応しようとしない性癖が認められ、この為さきになされていた教護院送致の措置も解除となつているものである。
以上の諸点を総合すると、少年に対して強制的措置を求める本件申請は誠に止むを得ないものと認められ、(本件について初等少年院送致も考えられないではないが、少年の年齢並びに上記の性格等に鑑ると教護院の処遇に委ねるのがよりふさわしいものと認められる)又強制措置をとり得る期間は通算して一八〇日とするのを相当と認め、少年法一八条二項、少年審判規則二三条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 助川武夫)